2025年 5月号
「『ディール(取引)』とは」
トランプ大統領とアメリカという国の政策が世界を混乱に陥れています。この問題に関しては、様々なメデイアで、いわゆる専門家の皆さんのいろいろなコメントを見聞きすることができますが、どれが正鵠を射ているかなかなか判断が難しいと感じています。とは言いつつ、素人の私見ながら、これだけは知っておくべきと思うことをひとつだけ申し上げたいと思います。
関税に関する日米貿易協定000527400.pdfの存在です。困難な交渉を経て合意に至り、2019年10月にワシントンDCにて当時の日本の駐米大使とアメリカ合衆国の通商代表が署名し20191004 日米貿易協定サイドレター(表紙・英文)、12月には日本の国会で承認後、両国間で相互の通告を実施(アメリカでは国内のルールで国会承認は不要)を経て、2020年1月に発効して現在に至っており、関税(自動車を除く)に関しては既に両国で合意されたルールが存在します。
今回のアメリカの物言いは、それをなかったことのように一方的に関税を上げると言って来ているということです。交渉に先立って、アメリカが日米貿易協定を破棄するのか、はたまた変更したいのかを問い詰めない日本の姿勢はいかがなものかと思います。既に合意したことや法律で決められたことを無視する権力者が率いる政府が相手であるということを認識すべきです。
トランプ大統領が得意だと自画自賛している「ディール(取引)」では、最初に声を荒げて恫喝し、あるいは相手が飲みそうにない高いハードルを示すことで、相手が下手に出たり、ひるんだ隙に、歩み寄ったふりをして、そのハードルを少し下げた条件を提示し飲ませる、自分に都合のよい条件を認めさせるというのが常套手段です。まさに脅しすかしです。その技に振り回されてはなりません。
そういう相手には、受ける側にもテクニックが必要で、高いハードルに対しては、冷静に全て計算ずくで、ちゃぶ台返しのそぶりを見せるか、相手を怒らせるかして相手の感情を揺さぶり冷静な判断の邪魔をし、その反応を観て、次の一手を打つということです。
アメリカで10年ほど暮らし会社経営に携わった私の拙い経験からも、人間関係を壊滅的にせずに保ちつつ、ギリギリの交渉するというのは、アメリカでビジネスをする上で常識的なことと言えます。
安全保障が絡んでいるという一筋縄ではいかない複雑な状況が、日本の立場を弱くしているという現実はあるものの、相手が「ディール(取引)」だと言うなら、我が国はもう少ししたたかさに振る舞ってもいいのではと思うのです。「ディール(取引)」によって双方WIN-WINの関係を構築できなければビジネスは長続きしないのが世の常です。
いずれにしても、今後とも何をしてくるか分からない相手ですから、日本経済全体も私たち中小企業の経営も大なり小なり影響を受けることは免れられないでしょう。
当所では緊急の相談窓口を設置し、何かあれば適切なアドバイスができる体制を日本商工会議所やJETRO等とも連携しながら整えています。アンテナを高く張り、迅速かつ適切な対応を可能とする準備を進めてまいります。
一方、海の向こうの予測不能なリーダーが何を言おうと、この国の、特にこの地域の状況が大きく変わることはなく、取り組むべき課題と可能性も不変だと思います。今年度の計画に掲げた取り組みをスピード感をもって進めてまいります。
ぜひ、当所の取り組みに関心を持っていただき、最大限に利用していただくことで、御社が不確実な時代を生き延び、成長を遂げられるお手伝いをできれば所員一同、嬉しい限りです。