小田原箱根商工会議所は、小田原・箱根の企業を応援しています。


2021年 5月号

なぜ、今、脱炭素なのか?
-私たちの商いと暮らしとの関係-

脱炭素って?
 最近、新聞やTVなどでよく目や耳にする言葉です。菅総理が昨年10月の国会での所信表明演説の中で2050年にはCO2排出をゼロにすると宣言、さらに、直近では4月22日に2030年のCO2削減目標をこれまでの26%から46%(2013
年比)に引き上げると表明しました。

 「なぜ、今、脱炭素なのか?」を私たちのような地域に根差した中小企業の立場から考えてみました。
 まずは、脱炭素は避けて通れない人類共通の課題であり、時限を設定した目標を掲げることは必須であるということです。
 脱炭素と聞くと、それは大量にCO2を出しているグローバルに活動する大企業の問題だと思うかも知れませんが、地球温暖化が引き起している気候変動は、決して大企業やグローバル企業だけの問題でもなく、地球の裏側の話でもありません。一昨年の秋の台風19号が箱根に降らせた1日で1000ミリを超える豪雨で、地域の主要産業である観光は甚大な被害を受け、小田原も大きな痛手を被りました。異常気象は、いや、すでに異常ではなく常態化していると言えますが、その原因である気候変動は、私たちの日々に商いに多大な影響を及ぼす自分ごとであることを思い知りました。

 また、世界の脱炭素の動きから遅れをとると、日本は世界のビジネスの輪から外され、日本の大企業やグローバル企業が商売を失うと、一蓮托生、そのサプライチェーンの末端にいる多くの地域の中小企業も仕事を失います。脱炭素は日本の国際競争力にとって重要な要素であり、国益に直結します。海外だけでなく、国内でも国民の環境意識が高まる中、対応が遅れる会社は顧客を失います。中小企業にとっても脱炭素は自社の死活問題であり、まさに自分ごとなのです。
 気候変動や脱炭素とは、環境問題であると同時に、私たちの商いに直接的な影響を及ぼす経済問題なのです。脱炭素こそがビジネスチャンスになる、まさにコロナからの快復の切り札とも言えます。

 昨年10月には全国に先立って、地域を挙げて、小田原市長、箱根町長の二人の首長、小田原市議会と箱根町議会の二つの議会、小田原市と箱根町の二つの自治会総連合、小田原箱根商工会議所の7つの団体が集い、気候変動正しく知り、それぞれの立場からできることをやっていこうという意志を「小田原箱根変動ワンチーム宣言」として発信しました。当所では、気候変動タスクフォースが会員さんの啓発のためにオンライン勉強会を始めたり、エネルギー環境委員会が音頭を取り、建設部会と地元の新電力との連携を図るなど、具体的な取り組みが始まっています。これが地域全体、そして全国へと大きなうねりになることを期待しています。

脱炭素とエネルギー
 脱炭素の大きな要素であるエネルギーについて3点とカーボンプライシング(炭素税、Cos排出量取引)についてお伝えします。

1.地域経済とエネルギーの関係
 地域に根差した中小企業は、必要な商品やサービスを提供し、雇用を創り、給与を払い、税金を納めるということを通じて、地域の暮らしの血流である地域経済を下支えするという役目を担っています。私たちが元気でないと地域も成り立ちませんし、地域が元気でないと私たちも商いを続けることができないという表裏一体の関係にあります。ですから、自分たちのビジネスの環境を整えるという意味で、地域でお金を回すことはとても重要です。私たち小田原市民が払っている電気料金300億円は、ほとんどそのまま域外に流出し、その中の大きな部分は化石燃料の輸入代金として国外に流出します。そのうちの何割かでも国内、そして地域内で循環できれば、それは地域の経済を潤し、地域の課題を解決する原資になります。地域で再生可能エネルギーの地産地消を進めるべき理由です。
 そして、言うまでもなく、エネルギーは気候変動に大きな影響を与えます。化石燃料を減らし、地域で地産地消される再生可能エネルギーに置き換えていくことは環境にも経済にもメリットをもたらします。

2.持続可能なエネルギー
 持続可能性という観点でエネルギーを論じる時、原子力発電をその選択肢に入れてはなりません。その理由は大きく2つ。まずは原子力発電所を稼働すること自体の安全性に不安があるからです。地震やテロといった万が一が起こった時に、この国が被り、世界に及ぼす災禍は、10年前の福島原発、さらに遡れば、米国スリーマイル島原発事故、ロシアのチェルノブイリ原発事故を振り返れば容易に想像できます。仮にその対策が可能だとしてもそれには膨大な費用が掛かり、原発は安いというデマゴーグは経済合理性を失います。
 さらに大きな問題は使用済核燃料の処理ができないということです。危険極まりない負の資産を生み出しながら持続可能性を謳うことは矛盾しています。

3.エネルギーの全体像を観て、賢く使う
 脱炭素のためにもエネルギーの使用を減らすこと=省エネも重要です。大企業はともかく、多くの中小企業では、なかなかそこまで考えられない、手が回らないというのが実態でありましょう。中小企業の省エネを進めることはエネルギー使用量を減らし、脱炭素に大きな可能性があります。
 さらに大切な視点は、「エネルギー=電気ではない」ということです。最終エネルギーのうち、電力は約半分、あとは熱と動力です。ですから、電力だけでなく、熱について考えることが重要です。わが国は化石燃料は豊かではありませんが、太陽 熱、木質バイオマス、地中熱などまだまだ未利用な熱源(冷熱)はたくさんあります。鈴廣では建物や設備の断熱や遮熱に加え、太陽熱を使った温水器や井戸水を使った空調などを取り入れています。

4.カーボンプライシングの本質
 それは「自社の事業に掛かる経費はそれぞれの会社が応分にフェアに負担しましょう」ということなのです。問題は何が応分なのか?フェアなのか? そして、そのものさしは何なのか?ということであり、そのことを国民的な議論を経て明確化して公表することだと思います。
 その際の重要な要素は、国内だけを見ての議論に終始するのではなく、世界の中で他国との比較、競争という視点で議論することでしょう。わが国が、既に先を行っている世界との競争に遅れをとれば、それはわが国のビジネス上の競争力を失うことになり、国益に反することになるからです。

「来るべき未来」にむけて
 今コロナで起こっていることの中には、コロナがなくとも遅かれ早かれ起こったことが多いように思います。今私たちが垣間見ているのは「来るべき未来」なのだと思います。「来るべき未来」のキーワードは持続可能性、脱炭素、分散型社会などでありましょう。「来るべき未来」は私たち地域の中小企業が地域から創っていくんだ!というくらいの気概を持ちたいと思います。中小企業はこの国の働く人の7割を雇用し、半分以上の付加価値を生み出しているのですから。小田原箱根からその動きをリードできたらと思います。
 世の中の人々の意識は変わってきています。どの会社のどんな商品やサービスを買いたいのか?どんな会社で働きたいのか?という選択の基準に、従来の便利さや豊かさや価格に代表される「お金」のものさしに、SDGsや脱炭素といった「持続可能性=いのち」のものさしが加わりつつあります。
 脱炭素を自らの行動規範に据え、具体的な取り組みを実践する会社でないと、お客様からの支持を得られず、働く人を集められない、そんな時代は始まっていると感じます。
 「小さいからできない」ではなく、「小さいからこそできることがある」と信じて、「来るべき未来」を一つひとつ創っていきましょう。

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