小田原箱根商工会議所は、小田原・箱根の企業を応援しています。


2023年 3月号

人財の確保が最大の経営課題に

 先日、5年ぶりにアメリカのロスアンジェルスに行ってきました。今から40年前に10年ほど現地で仕事をしていた時に、公私ともに大変お世話になった方(アメリカでの父親代わりのような方でした)が亡くなり、その葬儀に参列するためでした。コロナの影響もあり5年ぶりの海外でした。中2日だけの駆け足の旅でしたが、高速道路を走る電気自動車の数の多さやダウンタウンに溢れるホームレスの姿など、コロナもあり久しぶりのロスアンジェルスでは驚くことがたくさんありました。
 
 そのひとつとして、働く人の意識と行動の変化について、お話してみたいと思います。私の知り合いの若者(大卒で20台男性)はロスの生まれ育ちでロスの名門大学を出てロスに本社がある会社(AI、ARといった最新のテクノロジーを使って様々な企業の支援をする)に勤めていますが、実際に住んで働いているのはハワイ!です。本社にはほとんど行かないそうです。彼の仕事は半分営業で半分企画。営業は世界中の顧客をリアルとリモートで訪問したり、トレードショーに出展したり本社にいてはできないことが多い。また、企画は全てオンラインでできるので、本社に出社する必要がなく、会社もそれを要求しないのだそうです。求められる結果さえ出せればですが。ですから、彼は勤務時間の枠に囚われることなく自分のペースで仕事し、午後2時にはセミプロ級のサーフィンに嵩じる日々だそうです。会社の業績が落ちれば即レイオフするアメリカならではかもしれませんが、彼の働き方がうらやましいと思う日本の若者も多いかもしれません。優秀な人財ほど場所と時間を超えて職を選べる時代になりつつあると実感する話でした。
 
 さらに、わが国の給与水準を国際比較で調べてみると、その低さに改めてびっくりです。先進国38か国が加盟するOECD(経済開発協力機構)の発表によると、加盟国中のG7の国の2021年のそれぞれの国の平均賃金(ドル)は、トップのアメリカ73,738を筆頭に、ドイツ56,040、カナダ56,006、イギリス49,979、フランス49,313、イタリア40,767、日本39,711で、日本は、OECD全体の平均の51,607を大幅に下回り、G7で最下位、OECD38か国中、24位です。ちなみに韓国は44,547です。ジャパンアズナンバーワンは昔日の話です。GDP(特に一人当たり)が伸び悩み、GDPの根源である付加価値を生み出すための生産性も低いというのが大きな要因のようです。
 
 ヒトも含めたソフトには国境がなくなりつつある中で、日本だけのスタンダードで考えていると、優秀な人財が海外に流出してしまい、採用することが難しい時代に入って来ている。日本だけが独特だという固定観念に囚われることなく、視野を広げ、意識と行動を変えていくことが、この国が本来の力を発揮し世界の持続可能な平和の暮らしの実現に貢献できる道なのではないかと、太平洋の反対側に居て、そう思いました。
 
 翻って国内でも、働く人の意識と行動の変化は既に始まっています。当所では昨年4月から副業人財を活用しています。大企業やグローバル企業で現役で(かつ高給で)活躍している方に週1リモート(ZOOM)、月一リアル(来所)というベースで働いてもらっています。月の報酬は10万円にいくかいかないかという程度です。会議所内のデジタル化も含めた業務改革、会員拡大につなげる広報、美食のまちの企画という3つの課題にそれぞれ一名ずつ計3名です。当所の職員にとっても、所内にはない知見や情報を得られること、そして、彼らのプロとしての仕事の仕方に大いに刺激を受けている様子です。その採用を手伝ってくれたのはテレビCMでもおなじみにビスリーチという会社です。彼らのWEBサイトに募集記事を掲載したところ、何と一か月で800名近い応募があり、その中から3名を採用しました。彼らの履歴書を見た私の最初の印象は、「こりゃダメ!な人ばかり」でした。というのは皆さん会社を2,3年でコロコロ変わっている華麗なる転職歴の方々ばかりですから。新卒で入社して定年まで真面目に勤め上げるのが美しい働き方だと信じて、そういう会社を作ろうと努力をしてきた私のような年代の経営者にとっては。しかし、世の中は変わり始めているということです。彼らの最大の興味は社会の課題が何で、自分の能力と照らして、どこでどう働くことがその課題の解決につながるかというものさしで会社や仕事を選んでいる。優秀な人財ほどそういう傾向が強い。華麗なる転職歴はその結果だということです。
 
 今、地域の中小企業である私たちが置かれた環境を熟考してみると、従来は競争相手と言えば、同じ地域の同業者であったケースが多かったですが、今はだれと競争しているのか分からなくなってきました。実際には大企業やグローバル企業と競合しているのかも知れません。そういう状況の中ではこれまで自社で培ってきた人財とノウハウだけで戦っていけるかといえば、それは難しいのではないでしょうか? そうかと言って、いきなり年俸数千万円は払えないわけで、そもそもそういう優れた人材が来てくれるかも分かりません。であるなら、副業というやり方もあり得るのではと考えたわけです。まずは、当所でやってみてメリデメも学びつつ事例を作り、将来的には会員企業さんにも広げていけたらと思ったわけです。
並行して大企業側にも自社の社員に副業を勧める事情が出てきました。定年までまだ10年ほどある50歳くらいでいろいろな経験や資格を持ったベテランの活用です。社内で燻ぶらせるより、積極的に、社に籍を置いたまま、社外に(特に地域の中小企業に)活躍の場を求めて副業として出すという動きが始まっています。そのような大手とも連携する可能性もありやなしやと思い始めました。
 
 わが国でも経営者が好む好まざるに拘わらず、働く人の意識と行動は変わってきています。そして、大手企業の考えも。
 これからますます企業間の格差は広がっていくでしょうし、特に大企業と私たちのような地域の中小企業、小規模事業者との間の格差の拡大はひときわでしょう。大手が先行する賃上げは中小企業によっても避けて通れない課題です。
 
 人口減、人口の少子化、高齢化で働く人が減る中で、人財の確保は経営の最大の課題のひとつになるでしょう。その答えはひとつでなく、様々な手の組み合わせでしょう。当所でも会員さんに具体の事例を示せるように、いろいろと試していこうと思っています。
 
 

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